マンモスの赤ちゃんが生まれるのは、早くても2030年代前半です。計画を進める米国のコロッサル社は、誕生の目標を2028年としていましたが、2026年8月の取材で、CEOが「2030年代前半」と述べました。書き換えが必要な遺伝子が、当初の約60から約150に増えたことなどが理由です。
「マンモスが復活する」──そんなニュースを見て、SFの世界の話だと思った方も多いかもしれません。しかし、これは実際に進んでいる計画で、同社はこれまでに5億5,500万ドル(約830億円)を超える資金を集めています(2025年9月時点)。

ただし、生まれてくるのは本物のマンモスではありません。この記事では、アメリカのバイオ企業コロッサル・バイオサイエンス社が進める「マンモス復活計画」の今と、本物ではない理由を、出典をもとに解説します。
「2028年」から「2030年代前半」へ──予定が延びた理由と、ここまでの歩み
この計画を主導しているのは、アメリカ・テキサス州ダラスに拠点を置くコロッサル・バイオサイエンス社(Colossal Biosciences)。ハーバード大学のジョージ・チャーチ教授らが共同創業した、遺伝子工学のスタートアップです。
同社のCEO、ベン・ラム氏はこれまで、「2028年末までに、代理母のアジアゾウからマンモスの最初の子を誕生させる」と話していました。米TIME誌(2026年8月)によると、当初の目標は「妊娠が2027年・誕生が2028年」でした。ラム氏はその取材で「2030年代前半になると考えている」「はっきりした日付はない」と述べています。理由の一つは、書き換えが必要な遺伝子が、当初の見積もりの約60から約150に増え、さらに増えていることです。
延期が分かる前の2025年9月時点で、同社の評価額は103億ドル(約1.5兆円)でした。
まずマウスで試した:2025年の「ウーリーマウス」
2025年3月、コロッサル社は、複数の遺伝子を一度に書き換える技術をまずマウスで試した「ウーリーマウス」(毛むくじゃらのマウス)を発表しました。7つの遺伝子に、合わせて8か所の書き換えをしています(2026年10月時点で論文は査読前)。
書き換えたのは、毛の長さ(ふつうのマウスの最大3倍)・毛の質・毛の色、そして脂肪の代謝に関わる遺伝子などです。同じ考え方の技術を、今度はゾウの細胞に使うのが同社の計画です。
「復活しても、それはマンモスじゃない」

ここに、この計画の最大の「意外な事実」があります。生まれてくるのは、実はマンモスではなく、マンモスの形質を持つように改変されたアジアゾウなのです。
マンモスに最も近い現生のゾウはアジアゾウで、両者のDNAは99%以上が同じだとされます。コロッサル社の計画は、アジアゾウの遺伝子をマンモスと同じ形に書き換え、寒さに強く、長毛で、小さな耳を持つ「マンモスに似たゾウ」を作ることです。書き換えが必要な遺伝子は、2026年8月時点で約150とされています。
見た目がマンモスに似ていても、中身は遺伝子を書き換えたアジアゾウです。報道では、この生き物を「マンモファント」(Mammophant:マンモス+エレファント)と呼ぶこともあります。
なぜマンモスを作るのか──狙いは永久凍土

「そんなに苦労してまで、なぜマンモスを復活させるのか?」──多くの人が抱く疑問です。コロッサル社が掲げる公式の目的は、意外にも地球温暖化対策です。
シベリアの永久凍土には、大量のメタンガスが閉じ込められています。温暖化で凍土が溶けると、このメタンが放出されて温暖化がさらに加速する──いわゆる「炭素爆弾」のリスクです。
ロシアの科学者セルゲイ・ジモフ博士は、シベリア北東部の「プレイストセン・パーク」(氷河期の草原を再現する実験場)で、草食動物を放す実験を続けています(1996年には広い囲いを作りました)。大型の草食動物(バイソン・トナカイ・ヤクート馬など)を1平方キロメートルに100頭ほど放すと、動物が冬の雪を踏み固め、積もった雪の高さがおよそ半分になります。雪は地面を布団のように温めているので、雪が減ると地面は冷えやすくなります。ドイツ・ハンブルク大学のチームが2020年に発表したモデル計算では、温暖化が進んだ場合の凍土の温度上昇を、約3.8℃から約2.1℃へ、44%ほど抑えられるとされました。
コロッサル社は、マンモスに似たゾウをこうした草食動物の仲間に加えることを考えています。マンモスがいたころに広がっていた、寒くて乾いた草原(マンモスステップ)を取り戻そうという構想です。
影の部分:残された倫理的問題

代理母は絶滅危惧種のアジアゾウ
マンモスに似たゾウを産むのは、それ自体が絶滅危惧種(IUCNレッドリスト・EN)に指定されているアジアゾウです。妊娠期間が22か月と長く、社会性も知能も高い動物を実験に使うことには、倫理面からの批判が根強く残っています。
教えてくれる親マンモスがいない
マンモスは群れで生きる高度な社会性動物でした。歩き方、水の飲み方、危険の避け方──これらすべてを、子どもたちは母や群れから学びます。しかし、今、地球上には教えられる大人のマンモスは一頭も存在しません。第一世代のマンモスに似たゾウは、野生に戻すことは事実上不可能とも言われています。
「復活より現存種の保護が先」という声
脱絶滅(絶滅した動物をよみがえらせること)の研究に注がれるお金や注目が、いま生きている絶滅危惧種を守る活動から離れてしまうのではないか、という心配の声も研究者から出ています。
それでも、私たちが問われていること
科学は今、失われた命を蘇らせようとしています。しかし本当に失ったものは、姿やDNAではなかったのかもしれません。
4000年前、最後のマンモスが目を閉じた瞬間に消えたもの──それは、群れの文化や、生きるための知恵でした。凍土を冷やすような働きは取り戻せたとしても、群れの文化は、どんな技術をもってしても戻すことはできません。
マンモス復活プロジェクトは、私たちに一つの問いを突きつけます。「絶滅は、本当に取り返しがつくのか?」──答えは、早くても2030年代前半に生まれる一頭の「マンモスに似たゾウ」が、少しずつ示してくれるかもしれません。
ショート動画でも紹介しています
この話は、YouTubeショートでも紹介しています。1分半で全体像がつかめる要約版なので、ぜひあわせてご覧ください。※この動画は、2026年8月に誕生の見込みが「2030年代前半」と見直される前に作ったものです。
この話は、編集部の本にもまとめています
「2028年にマンモスの赤ちゃん誕生」という見出しは目にしても、その予定が2030年代前半に延びたことや、予定がどう変わってきたのか、専門家が何を疑問に思っているのかまでは、ニュースだけでは追い切れません。発表や論文の多くが英語で、少しずつ更新されていくためです。編集部では、計画の予定の移り変わりと専門家の見方を、出典をたどって1冊の本にまとめました。
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『人間が消した動物、人間が戻した動物 絶滅・回復・脱絶滅 ドードーからマンモス復活計画まで、出典つきで読む15の実話』(いきもの謎解き図鑑)
人間が消してしまった動物、消しかけてから戻した動物、そしてよみがえらせようとしている動物の歴史を、15の実話でたどる読み物です。各章に出典をつけ、「研究者の見方が分かれるところ」と「いまも分かっていないこと」も分けて書きました。マンモスは第14章「マンモスとダイアウルフ 企業が挑む『脱絶滅』」で扱っています。
Kindle版(Kindle Unlimited 読み放題の対象)。
価格・読み放題の対象は変わることがあります。
主な参考資料
- Colossal Biosciences 公式発表(BusinessWire, 2025-03-04)
- Bloomberg「Colossal Biosciences Raises 200 Million to Bring Back Woolly Mammoth」(2025-01-15)
- TIME「Woolly Mouse: Colossal Biosciences」(2025-03)
- TIME(2026-08-24)マンモスの誕生予定と、書き換える遺伝子の数についての Ben Lamm 氏の発言
- Dallas Innovates(2025-09-17)資金調達と評価額
- Universität Hamburg CLICCS(2020-03-17)放牧と永久凍土のモデル計算(Beer ら、Scientific Reports)
- National Geographic「Mammoth-Elephant Hybrids Could Be Created Within the Decade」
- CBS News「Climate Change Permafrost: Pleistocene Park Siberia」
こちらの記事もどうぞ
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- コロッサル社が取り組む絶滅動物の計画まとめ(マンモス・ドードー・タスマニアタイガーほか)
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SNSでも発信中(すべて @ikimono_nazo)
参考文献・出典
- Colossal Biosciences 公式サイト
- Church Lab Harvard – Mammoth De-extinction
- Nature (2015) Woolly mammoth genome sequencing
- Science (2021) De-extinction technology overview
- BBC News – Mammoth revival project
※本記事は上記の一次資料に基づき編集しています。誤り・追加のご指摘はお問い合わせフォームからご連絡ください。
編集部の考察:誕生予定の数字を、希望でも警告でもなく『責任』として読む
マンモス復活の予定(当初の2028年、2026年8月からは2030年代前半)は、しばしば「夢のような未来」あるいは「傲慢な人類の暴走」という両極端で語られます。編集部の立場はそのどちらでもなく、「復活後の運用責任は誰が負うか」という現実的な問いに読者を導きたいと考えています。マンモスに似たゾウ(正確には、遺伝子を書き換えたアジアゾウ)が誕生した場合、その個体は野生生物なのか実験動物なのか、飼育義務は誰にあるのか、シベリアへの再導入の法的枠組みはあるか──これらは技術的問題ではなく、政治・法律・倫理の問題です。復活予測の日付を追いかけるだけでなく、その日付までに人類側が準備すべき制度設計にも読者の関心が向くことを、本メディアは願っています。復活は始まりであって終わりではありません。ゾウは何十年も生きる動物です。復活を決断するということは、その一生ぶんの責任を引き受けるということです。
この記事を書くにあたって
本記事の執筆にあたり、いきもの謎解き図鑑編集部は以下の資料を精査しました。動物学の分野は日々進歩するため、公開後も新研究が出た場合は追記・訂正を行います。誤りのご指摘はお問い合わせフォームからいただければ幸いです。
- Colossal Biosciences 公式資料
- Church & Regis (2014) Regenesis
- Nature誌 マンモス脱絶滅特集
さらに深く知るための3冊
ここまで読んで「マンモス復活は本当にできるのか、もう少し詳しく知りたい」と思った方へ。ただ、ニュースで追えるのは「何年に誕生予定」といった見出しの部分だけで、研究者たちが何につまずき、どう乗り越えてきたのかまでは分かりません。計画の発表や論文の多くが英語で、日本語でまとまった読み物が少ないためです。編集部が記事を書くときに参照している中から、計画の始まりを追ったノンフィクションと、絶滅動物の全体像をつかむための本を選びました。
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『マンモスを再生せよ ハーバード大学遺伝子研究チームの挑戦』(ベン・メズリック著/上野元美 訳/文藝春秋)
ヒトゲノム計画を率いたハーバード大学のジョージ・チャーチ教授の研究室が、遺伝子技術でマンモスをよみがえらせようとする計画の始まりを追ったノンフィクションです(2018年刊)。「氷河期の草原」をシベリアに取り戻そうとするロシアの研究者との出会いから、試料集め、遺伝子の編集まで、この記事で紹介したコロッサル社につながる研究の出発点が描かれています。「なぜマンモスなのか」が気になった方に。
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『おしゃべりな絶滅動物たち』(川端裕人/岩波書店)
ドードー、ソリテア、フクロオオカミ(タスマニアタイガー)、ヨウスコウカワイルカ──人間が関わって姿を消した動物たちを、絶滅に至るまでの歴史的な経緯とともに扱った一冊です。「復活させる前に、なぜ消えたのか」を知りたい方に。
『絶滅生物図誌』(チョーヒカル)
絵師チョーヒカルによるリアルなイラストで、古代から現代までの絶滅生物70種を「水」「翼」「陸」の3つに分けて紹介しています。文章より先に絵から入りたい方に。
耳で聴くなら
「買ったのに読めていない本」が積まれている方へ。興味はあるのに読み進められないのは、意志の問題ではなく、まとまった読書時間が生活の中にないことが原因です。その点、通勤中や家事の最中は耳が空いています。オーディオブックなら、その時間をそのまま読書に変えられます。Audibleには30日間の無料体験があるので、まず1冊聴いてみて、合わなければやめられます。
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